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東京高等裁判所 昭和43年(行コ)57号 判決 1970年1月30日

東京都新宿区柏木一丁目一六一番地

控訴人

天羽光敏

右訴訟代理人弁護士

倉田靖平

右訴訟復代理人弁護士

小森泰次郎

東京都新宿区柏木三丁目三一二番地

被控訴人

淀橋税務署長

本郷一郎

右訴訟代理人弁護士

鶴沢晋

右指定代理人

野田猛

掛札清一郎

越田友進

右当事者間の贈与税等の決定取消請求控訴事件について、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し、昭和三八年一一月三〇日にした昭和三六年度分贈与税金六六二万一、〇八〇円及び加算税一六五万五、二五〇円の賦課決定は無効であることを確認する。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二、控訴人は、当審で次のとおり述べた。

(一)  課税処分の無効は、重大な違法があれば足りる。憲法八四条は、租税法定主義を宣明したものであるところ、ここに租税法定主義とは、課税要件を法定することにより、行政庁の恣意的な徴税を排除し、もつて国民の財産的利益が侵害されないようにするためのものである。そして、課税処分における課税要件の存在は最も基本的な要件であり、課税要件が存在しないにもかかわらず、これあるものとして課税することは、国民の財産的利益が国家により不当に侵害されることであり、国民の権利は国政の上で最大の専重を必要とすると規定する憲法一三条の精神に反し、租税法定主義にも反する重大な違法であり、かかる重大な違法は明白性を要せずして無効というべきである。贈与を受けた事実がないのに贈与税の賦課処分をすることは、その実体面において最も基本的かつ重大な誤を犯したものというの外なく、たとえ、その瑕疵が外見上明白でなく、又その手続の形式において欠陥がなくても、当該課税処分は当然無効とするのが相当というべきである。本件担当官が一挙手一投足の労を費せば、本件移転登記が単なる名義回復にすぎないものであることを発見しえたに拘わらず、被控訴人は、「疑わしき場合は課税」の措置に出たのであつて、かかる課税処分を無効としないならば、恣意的な徴税を容認する結果を招き、ひいては裁判所による国民の権利救済の途をとざすことになる。

(二)  本件課税処分には、一見明白な瑕疵がある。行政庁が、その職務の誠実な遂行として当然に要求される程度の調査によつて判明すべき事実関係に照らせば、明らかに誤認と認められる場合、換言すれば、行政庁がかかる調査を行なえば、とうていそのような判断の誤をおかさなかつたであろうと考えられる場合も、明白な違法のある場合というべきところ、本件担当官が調査を尽くせば、本件土地が実質的に控訴人の所有であり、本件移転登記が名義の回復にすぎないことが、何人の判断によつてもほぼ同一の結論に到達しうる程度に明らかになつたものと考えられるのであるから、本件課税処分には一見明白な瑕疵があるものというべきである。

三、以上のほか、当事者双方の主張は、原判決事実摘示のとおりである。

理由

当裁判所もまた、行政処分が当然無効であるというためには、該処分に重大かつ客観的に明白な瑕疵が存することを要する(昭和三一年七月一八日最高裁判所大法廷判決・民集一〇巻七号八九〇頁参照)ところ、本件課税処分の瑕疵は重大ではあるけれども、客観的に明白であるとはいえないものと判断するものであつて、その理由は、原判決理由と同一である。

よつて、本件控訴を棄却し、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長 岩野徹 判事 瀬戸正二 土肥原光圀)

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